原動機メーカーの調達部に所属している永野(仮名)は、入社8年目主に鋳造品の調達を担当している。
重機械メーカーなどをはじめとして、ほとんどの同業メーカーは、鋳造品の調達先を国内メーカーから海外に移す傾向にある。国内の鋳造品は高コストになっており、コスト面からどうしても採用することができないという状況が業界の常識となっている。
永野は海外メーカーとの価格交渉、納期交渉、品質面での指導などやるべきことが満載で、なかなか定時で帰宅することができない状況が続いている。来る日もくる日も残業で、帰宅はいつも遅い。
調達部の2017年からの全社リードタイム短縮活動目標は30%短縮。
昨年度までの活動ですでに25%まで詰めてきた。海外メーカーのリードタイム設定は、バッファーを大きく設けてあるので、これまでの活動は仕入れ先メーカーとの交渉により、比較的容易に25%減までは達成できた。
しかし、海外メーカーは25%減を約束したはずだが、最近の3ヶ月では、納期が遵守されていない案件がいくつか発生している。生産管理部や製造部からは、「海外メーカーに約束を守らせろ」という要求が日増しに大きくなっているのが現状だ。
このような現状を打開することも含めて海外メーカーを活用することが求められている。
永野としては、残りの今年度分5%短縮と今までの交渉で約束した25%を確実に守ってもらうことが活動目標となり、実質日数にして7日+αの短縮が求められていることになる。
今日はカイゼンアドバイザーも参加するカイゼンミーティングの席上で、こんなことを指摘された。
「永野さん、海外メーカーとは工事の進捗を報告してもらう約束をしたはずだったね。あれはどうなっていますか?」
そう言われると、約束した当初は確かに海外メーカーから報告が来ていた。しかし、ここ数ヶ月は自分の仕事も忙し苦なってしまい、フォロー出来ていなかった。
「仕組みを作って始めたばかりだが、定着させるには今が一番重要な時なんですよ。」「もう一度、前に決めた通りに進捗報告をもらうようにしよう。まだ手遅れではない」とアドバイザー。
「はい、わかりました。今度は忘れずにフォローします。」
そして、今年度の7日短縮については、出図から発注までの15日間を半減することで方針が決まった。
永野は出図から発注までの15日は絶対に縮まらない。自分がやるべきことはいつも第一優先でやっているし、もしやるとすれば関係部署にかかっている。
これまでも関係部署に相談はしたが、皆忙しくて良い返事をもらえていなかった。『絶対無理だ!』永野は自分の心の中で確信のようなものを感じていた。
でも、アドバイザーや上司の前では、『絶対無理だ!』と言い出すことができなかった。
永野は忙しい中で、アドバイザーに言われた通り、表準(現状のありのままの姿を見える化したフロー図)を作ってみた。15日間の流れなので、それほど手間はかからなかった。出来上がった表準を眺めても、設計者はこちらの希望を聞いてくれないし、法務も「ルールの通り」と言ってルールを傘に、譲歩してくれそうもなかった。
1週間後のミーティングで、活動メンバーに表準を説明し他ところ、「永野さん、いつも苦労しているんだね」「大変だね」という意見をもらって、日頃の苦労を理解してもらえたことは正直嬉しかった。
でも設計や法務はわかってくれないという気持ちには変わりなかった。
「永野さん、この表準を持って関係部署をもう一度回ってみよう」「今までは関係部署に、ただ言葉だけで説明していたんでしょ?」「もし担当者に聞いてもらえなかったら、設計課長に相談してみたらどうだろうか?」
確かにそう言われると、以前設計に相談に行った時には、設計の担当者が忙しそうで、ろくに話も聞いてもらえなかったことを思い出した。
永野はこの瞬間何か頭の中で光るものを感じた。
活動メンバーもこの表を見て、自分の苦労を理解してくれた。これを見せて説明すれば、設計者も話に乗ってくれるかも知れない。
『よし、もう一度当たってみよう!』
これが永野のスコトーマが外れた瞬間だった。
実際に、設計と法務に表準を持って相談に行ったら、話を理解してくれた。後で分かった話だが、輸出審査は定型的なもので、輸出先のメーカーが前もって決まっている場合には、実質的な審査はしていなかったということだった。
全社のカイゼン活動中だったということと、実際に起こったことをありのままに説明できたことがよかった。
また、海外メーカーの工事の進捗管理も、再度こちらから依頼したら、「もうやらなくても良いのだと思っていました」「必要なら、また再開します」という回答をもらうことができた。
こうやって一旦スコトーマが外れると、考え方が前向きに変わってくるものだ。
もう一つの課題「予算超過申請」について考えてみると、その都度やっているから大変なので、忙しい役員の不在の時には余計に時間がかかってしまう。
だったら、鋳物品の価格を年度ごとの協定価格にしておけば、日常の手続きは不要になってくる。
これまでの交渉は、大抵がメーカーに押し切られてしまい、予算超過申請が定型業務になっていた。
協定価格について海外メーカーに話をしてみたら、3社のうち2社は応じてくれるという回答をもらうことができた。
(次回に続く)
私はこれらの経験とコーチング理論で、皆さんにWant toのゴールを見つけてもらい、その達成に向けて、プロコーチとして仕事をして参ります。ぜひお声掛けください。
hatso820@gmail.com
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